しらさぎ子ども図書館 -詩の森-

■プロジェクト概要

 

 引退を迎える会社経営者が私財を用いて子供達のための図書館(子供食堂併設)を建て、寄付を募りながら運営を行い、地域社会に貢献するプロジェクト。

 地元の人たちに愛される桜の綺麗な白鷺公園に相対した住宅地の一角に 『子供達にとって楽しく魅力的で、地域の人達にも親しまれる子供のための図書館』を作ることで、子供を中心に地域の人や企業、大学が主体的に関り合う循環を生み出し、地域で子供達を育む魅力的な施設を目指した。

 

 

■意匠計画

 

 現代的なプログラムともいえる『私設の子供図書館』を設計する上で、建築主とのディスカッションを重ね、

・子供達が認知しやすく、気軽に入って来られる空間とすること

・本を読むスペースは落ち着いた空間とすること

・様々な居場所があり楽しく安心感のある空間で、本や勉強が好きでない子供も受け入れる居心地がいい空間とすること

・図書館の活動が外部に発信され、地域とつながること

・公園とつながり、一体と感じる図書館とすること

を目指すこととした。

 

 そこでまず、敷地いっぱいに「くの字」の平面を置く配置計画とした。建物の顔を公園側に寄せることで図書館と公園との距離を縮めて両者のつながりを作り、かつ、図書館が面する2本の道路に接する面を最大化する。また、ファサードを全面ガラスにすることで、外から認知しやすく、内からも桜の木によって季節の変化を感じることができ、公園と地域につながる平面計画の効果を最大限引き出した。

 

 次に、くの字平面の短手方向に、公園の桜並木の空間性を図書館まで引き込むように、枝垂れた屋根を架ける。 屋根は図書館と街とのつながりを調整し、包まれる安心感と開放感を両立したピロティ、街につながる1階(受付、キッズゾーン、子供食堂)と、公園に開きつつ落ち着きのある2階(読書・学習スペース)をつくる。屋根は枝垂れることによって、西日をカットして地面にバウンドした間接光を建物に導くだけでなく、公園の橋から図書館への連続性を生み出す。

屋根は建物のどこにいても感じることができる存在で、図書館のシンボルとするため、綺麗な一枚の面にした。そしてその下に内外が連続する様々な場所を作ることで、子供達それぞれに自分の居場所があり、それと同時に一つ屋根の下でみんなとのつながりを感じられる図書館ができた。

また、屋根は『子供達に「自然の力」を伝えるエレメント』としても機能する。屋根がうつろう光や雨の水、風、重力といった自然の力受け止めて子供たちに伝えることで、『建築自体が学びや気付きの一つとなる』ことを意図した。

 

 長手方向では、公園側には2階につながる階段とベンチ、本棚が一体となった、公園の延長のような動きのある空間を設けた。そこで過ごす子供達自身が、公園と地域へ図書館の楽しい雰囲気を発信する。住宅側には1階に子供食堂を設けた。ご飯を作ったり食べたりする様子を地域の大人にも子供にも目で伝えることで、子供は気軽にご飯を食べに来れ、大人は活動を見守ることができ、地域全体で子供達を育む雰囲気を醸成することを意図した。

 

 本棚は壁面と一体化させ、他の用途で利用するときの妨げにならないようにした。子供の少ない平日午前中などは、それぞれのスペースを地域の活動のためのスペースとしても利用できる。細長い平面形状は壁面本棚を最大化し、結果として3000冊以上の収蔵量を確保できた。また、壁面本棚がくの字に折れることで『本を開いたような形の壁』になり、そこへ楽しい図書が置かれる、直感的で好奇心旺盛な子供たちを惹きつける図書館となった。

 

 図書館は建設中から子供達の注目の的で、オープンしてすぐに子供達が駆けつけた。子供達のネットワークで噂が広がり、当初想定していた地域以外の子供達からも利用されている。ピロティでワイワイ宿題をする子、ベンチでのんびりする子、読書スペースで熱心に本を読む子など、子供達がそれぞれに建築に込めた思いを無意識に受け止めて楽しんでいる様子を見たとき、建築主とのディスカッションで目指したものが実現できたと感じた。

 

 

■構造計画

 

荷重バランスから導き出した、3間の無柱空間から跳ねだして作られる「1.5間+垂れ壁」の半外部空間を、コロナによるウッドショックのなか軽やかなに実現することが構造上のポイントとなった。 そこで、木梁を6m以下の部材に分割したうえで、一本物の軽量溝形鋼を木梁の両サイドから挟むように一体化する方法を採用した。これにより、構造用合板や木の軒桁に対する接合は木梁を介するためシンプルに済ませることができ、大工工事による在来工法の木架構の範疇で大幅に梁せいを抑えることができた(180成)。また、先端の吊束も軽量溝形鋼とし溶接で一体化することで径の小さな部材で安定性を確保できる。 結果、枝垂れた桜並木のように軽やかな屋根で子供達の居場所を包み込むことができた。

 

■建築概要

 

構造設計:柳室純構造設計

施工  :株式会社 ヴィーコ

用途  :集会所

構造  :木造

階数  :2階

敷地面積:281.44

建築面積:134.25

延床面積:192.17㎡

 

写真撮影:田中克昌 湯川晃平(施工中写真)